iDeCo改正2026「改悪」と「拡充」の両面を正直に解説

僕もiDeCoを続けている一人だ。 口座残高が足りなくて引き落とせない月もあった。 それでもなんとか積み立てを続けてきた。

そんな折、2026年に入ってからSNSで「iDeCo改悪」という言葉をやたら目にするようになった。 一方で「掛金が2.7倍に拡大」「加入年齢が70歳まで延長」というポジティブな報道もある。

結論から言うと、2026年のiDeCo改正には「改悪」と「大幅拡充」の両方がある。 どちらか一方だけ見て判断するのは危険だ。 両面を正確に理解して、自分に合った戦略を選ぶことが大事だと思う。

前回の記事「iDeCo大改正2026:掛金が2.7倍になる今、会社員がやるべきこと」では拡充面を中心に書いた。 今回はあえて「改悪」と言われている部分にも正面から向き合ってみる。

ちなみにiDeCoの加入者数は2026年1月時点で約386.6万人。 これだけの人に影響する話なので、しっかり整理していこう。


まず全体像を押さえる——2026年iDeCo改正タイムライン

改悪か拡充かを判断する前に、まず何がいつ変わるのか整理しよう。

2025年6月13日に年金制度改正法が成立した。 iDeCoは段階的に大きく変わっていく。 主な改正は以下の4つの時期に分かれている。

  • 2024年12月(施行済み):事業主証明書の廃止。会社員のiDeCo加入手続きが大幅に簡素化された
  • 2026年1月(施行済み):退職所得控除の「5年ルール」が「10年ルール」に変更。これがいわゆる「改悪」の正体
  • 2026年4月(施行済み):マッチング拠出の上限制限が撤廃。企業型DC加入者の選択肢が広がった
  • 2026年12月(施行予定):掛金上限の大幅引上げ、加入年齢が65歳から70歳へ拡大

こうして並べると、改悪と言われているのは1つだけ。 残りの3つはすべて拡充だとわかる。 ただし、その「1つの改悪」が人によっては数十万円のインパクトになる。


「改悪」の正体——退職所得控除の10年ルールとは

税務書類の上に置かれた電卓とペン Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

タイムラインで最も注目すべきは、2026年1月に既に施行された10年ルールだ。

まず大前提として、退職金がない人・少ない人にはほぼ影響ゼロ。 フリーランスや退職金制度のない会社に勤めている人は、安心して読み飛ばしてほしい。

影響を受けるのは「iDeCoと退職金の両方を一時金で受け取る予定の会社員」に限られる。

5年ルールから10年ルールへの変更点

従来の制度では、iDeCoの一時金を受け取ってから5年以上空ければ退職所得控除がフルに適用された。 その後に退職金を受け取っても、控除を丸ごと使えた。 これが「5年ルール」と呼ばれていたものだ。

たとえば「60歳でiDeCo一時金、65歳で退職金」というプランが王道だった。 5年空いているから、それぞれに退職所得控除がフル適用。 税金はほぼゼロになる。

ところが2026年1月以降、この間隔が10年に延長された。 freeeの解説記事にも詳しいが、60歳でiDeCo→65歳で退職金だと間隔が5年しかない。 控除が調整されて課税が発生する。

具体的にいくら損するのか

勤続35年・iDeCo加入20年の会社員のケースで見てみよう。 60歳でiDeCo800万円を一時金で受け取り、65歳で退職金1,500万円を受け取る場合だ。

  • 改正前(5年ルール):それぞれに退職所得控除がフル適用 → 税額はほぼゼロ
  • 改正後(10年ルール):退職金の控除が調整され、課税退職所得が約450万円発生 → 税額は約93万円

差額は約93万円。これは確かに痛い。

「60歳でDCを一時金で受け取ろうと考えていた人々にとっては不利な変更」という指摘は、複数の税理士・FPが共通して述べている見解だ。 BIZARQ会計事務所も「受け取り方次第では数十万〜数百万円規模で税額が増えるケースがあり得る」と試算を示している。

なぜこの変更が行われたのか

背景にあるのは「課税の公平性」だ。

従来の5年ルールでは、退職所得控除を二重取りすることが実質的に可能だった。 受け取る時期の違いだけで税負担に大きな差が生じるのは不公平。 その是正のために10年ルールへの改正が行われた。

ちなみに、退職金を先に受け取り→後でiDeCo一時金を受け取る場合の「19年ルール」は変更なし。 ただし20年以上の間隔が必要で、現実的な選択肢とは言いにくい。

注意:具体的な税額は個人の状況によって大きく異なる。正確な金額は税理士に相談してほしい。


一方の「拡充」——iDeCo掛金2.7倍と加入年齢70歳の衝撃

電卓とチャートが並ぶデスク Photo by Cht Gsml on Unsplash

10年ルールだけ見ると確かに厳しい。 でも、2026年の改正にはもう一つの顔がある。

掛金上限が大幅に引き上がる

2026年12月施行(2027年1月引落分から適用)で、掛金上限が以下のように変わる。

  • 会社員(企業年金なし):月23,000円 → 月62,000円(約2.7倍)
  • 公務員:月20,000円 → 月62,000円(約3.1倍)
  • 自営業・フリーランス:月68,000円 → 月75,000円(国民年金基金等との合算枠)
  • 第3号被保険者(専業主婦等):月23,000円のまま変更なし

楽天証券の制度改正ページに詳細がまとまっている。 特に会社員と公務員の引上げ幅が大きい。

仮に月62,000円を年利3%で30年積み立てた場合を試算してみよう。 元本約2,232万円に対して運用益約1,356万円。 合計で約3,588万円になる計算だ。

加入年齢が70歳まで拡大

これまで65歳未満だった加入可能年齢が、70歳未満に引き上げられる。 「第5号加入者」という新しい区分が創設され、掛金上限は月62,000円。

60代でもまだ積み立てられる。 定年延長が進む今の時代に合った改正だと感じる。

マッチング拠出の制限も撤廃

2026年4月から、企業型DCのマッチング拠出における制限がなくなった。 従来の「加入者の掛金が事業主の掛金を超えてはならない」というルールが撤廃された形だ。

寺田税理士・社会保険労務士事務所は「年12万円の節税が可能になるケースがある」と指摘している。 企業型DCに入っている人は一度確認してみる価値がある。

東証マネ部(JPX)も「改悪と拡充の両面があるが、トータルでは制度の利便性が大きく向上する」という見方を紹介している。

掛金を増やすときの心構え

僕は過去に株で200万円、ソーシャルレンディングで750万円と大きな損失を経験した。 今はS&P500一本のインデックス投資に落ち着いている。

この経験から言えるのは、掛金の枠が広がっても無理に全額突っ込む必要はないということ。 自分のリスク許容度と生活費を考えて、無理のない範囲で増やすのが正解だと思う。


10年ルール時代のiDeCo受取戦略——3つの選択肢

拡充面のメリットがわかったところで、問題は出口だ。 10年ルール時代に、iDeCoをどう受け取るのが得なのか。

選択肢1:一時金受取で10年以上の間隔を確保する

60歳でiDeCo一時金を受け取り、70歳以降に退職金を受け取る。 10年以上空ければ退職所得控除がフルに使える。 改正前と同じ節税効果を維持できる。

ただし退職金を70歳以降まで繰り下げる必要がある。 会社の退職金規定で繰り下げが可能かどうか、事前の確認が必須だ。

選択肢2:年金受取(または一時金+年金の併用)にする

iDeCoを年金形式で受け取れば、退職所得控除の10年ルールの対象外になる。 年金部分には「公的年金等控除」が適用される仕組みだ。

ただし注意点もある。 公的年金(厚生年金・国民年金)と合算されるため、控除額を超えた分は雑所得として課税される。 国民健康保険料が上がる可能性もある。 トータルの手取りで比較する必要がある。

一時金と年金の併用もあり得る。 一時金部分を退職所得控除の範囲内に抑え、残りを年金で受け取る方法だ。

選択肢3:そもそも気にしなくていい人もいる

繰り返しになるが、退職金がない人・少ない人は10年ルールの影響をほぼ受けない。 フリーランス、退職金制度のない会社の会社員、退職金が少額の人。 一時金でシンプルに受け取ればOKだ。

FP1級の山中忠氏は「退職金の受取時期の繰下げや、iDeCoの年金受取併用など、複数案を比較試算することを推奨」と述べている。

専門家の共通見解として「税金ゼロに固執するよりトータル手取りの最大化を目指すべき」という声が多い。 僕も同意見だ。


それでも残る注意点——iDeCoは60歳まで引き出せない

受取戦略を押さえれば10年ルールは怖くない。 ただし、iDeCoそのものの注意点も改めて確認しておこう。

60歳まで原則引出不可。 これがiDeCo最大の制約だ。 急な出費やライフイベントへの柔軟性はNISAに劣る。 掛金を上限まで増やす前に、NISAの枠を使い切っているか確認した方がいい。

年金受取時の社会保険料増加リスクも見落としがちだ。 公的年金等控除を超えた分は雑所得となる。 国民健康保険料にも影響する。

そして税制改正は今後も変わりうるという点。 10年ルールが将来さらに厳しくなる可能性もゼロではない。

NISAとiDeCoの使い分け

この改正を機に「NISAとiDeCo、どっちを優先すべき?」と迷う人も多いと思う。 基本的な使い分けはこうなる。

  • 所得が高い人(年収500万円以上目安):iDeCoの所得控除効果が大きいので、iDeCo優先が合理的。年収700万円で月23,000円拠出なら年間約8.3万円の節税になる
  • 専業主婦・所得が低い人:所得控除の恩恵がないためNISA優先が合理的。NISAは引出し自由で柔軟性も高い
  • 余裕がある人:両方やるのがベスト。iDeCoで老後資金を確実に積み立て、NISAでライフイベント対応の柔軟な運用をする

iDeCoは「老後資金の強制貯蓄 + 節税」。 NISAは「柔軟な非課税運用」。 この整理で覚えておくとわかりやすい。


今日やるべき3つのこと

注意点を理解したうえで、じゃあ具体的に何をすればいいのか。 3つに絞った。

1. 自分の退職金制度を確認する

会社の人事部門に退職金規定を確認しよう。 具体的には「退職金の見込額」と「受取時期を繰り下げられるか」の2点を聞く。 退職金がない・少ない人は10年ルールの影響が小さいので、むしろ安心材料になる。

2. iDeCo公式シミュレーターで試算する

iDeCo公式シミュレーターを使おう(メンテナンス中の場合は楽天証券のシミュレーションも利用可能)。 現在の掛金と新上限(月62,000円)での将来額を比較できる。 節税効果も含めた試算が可能なので、メリットが具体的な数字で見える。

3. 掛金引上げを12月に向けて準備する

2026年12月施行で掛金上限が変わる。 金融機関の変更手続きには時間がかかることもある。 早めに動いておくといい。 手数料無料のSBI証券楽天証券が人気だ。

まだiDeCoを始めていない人は、前回の記事「iDeCo大改正2026:掛金が2.7倍になる今、会社員がやるべきこと」で始め方を5ステップで解説している。 あわせて読んでみてほしい。


まとめ

この記事のポイントを整理しておく。

  • 2026年のiDeCo改正は「改悪」と「拡充」の両面がある。 片方だけ見て判断しないこと
  • 改悪(10年ルール)の影響を受けるのは、退職金とiDeCoの両方を一時金で受け取る会社員が中心。 退職金がない人はほぼ影響なし。受取戦略の工夫で対策できる
  • 拡充(掛金2.7倍・加入年齢70歳)は全加入者にとって大きなチャンス。 月62,000円を30年積み立てれば約3,588万円になる試算もある
  • まずは自分の退職金制度を確認し、シミュレーターで試算するのが最初の一歩

僕自身は、改悪面を理解したうえで引き続きiDeCoと向き合っていくつもりだ。 10年ルールは確かに痛い。 でも掛金枠の拡大というチャンスの方が、個人的には大きいと感じている。

もちろんこれはあくまで僕の判断で、最適解は人それぞれ違う。 大事なのは「改悪だ」という声に振り回されないことだ。 自分の状況で何が変わるのかを冷静に把握しよう。

改悪も拡充も、知っているかどうかで数十万円の差がつく。 まずはiDeCo公式シミュレーターで、自分の数字を確認するところから始めてみてほしい。


参考リンク